今日も、人を殺してきた。
それでいて、唯一の、自分の辿りつく場所は。
小さな、古びた教会だった。
<Bed for mercy.from then on…>
――もう、これで何度、この場所へ来ただろうか。
来る時は、いつも一人。
なのだけれど。
「あれ、居たの?」
「……お前こそ」
祭壇の真ん中に立っていたのはケントだった。
彼も、先程までは一緒に戦っていたのだが。
お互いの腰に挿してある剣は、同じように斬った相手等の血が付いている。
「……お前も、か」
「何が」
「今日の、……懺悔」
「………」
正直、そんな辛気臭い事なんかするつもりもない。
罰を受ける、なんて考えだってこれっぽっちもない。
生きる為に、人を殺しているのだから。
「……違うのか?」
「………ぷっ」
「! 何だ、一体……」
「…ごめん、お前は、そーいう奴だったよな……ははっ」
分かっていながら、つい笑ってしまう。
そうすれば、みるみるケントの顔も赤くなっていって。
「さっきから何なんだ、一体! からかうのも大概に――」
怒りだそうとするケントを横目に、セインはある物に目を止めた。
「……あれ?」
「おい! お前は人の話を――」
「こんな剣……前からここにあったっけ?」
セインは、祭壇の目に付きにくい場所にあった所に刺してあった、一本の剣を抜いた。
ずしりと手に伝わった重みは、通常の剣よりも少し重く感じられた。
「……クルタナ」
「?」
「その剣の名前だ」
「へぇ……面白いな」
抜いてみて分かった事だが、この剣には切っ先が無い。
戦闘で使われる様な剣では無い事は何となく予想がついた。
「……これ、斬るんじゃなくて撲殺専用とか?」
「……馬鹿」
「冗談。……でも、何の為に使ったんだろうな?」
「王位継承の儀式に使われた剣だと聞いている。……最も、これはどうだか知らないがな」
「…まがいもん?」
「…そこまで貴重な剣じゃない。此処に置いてあるという事は、おそらく“慈悲”を意味したのだろう」
「“慈悲”ねぇ……」
「もう一つの意味は、“伝承”」
「……何の?」
「騎士道……だと」
「よくまぁ……そこまで」
セインは毎度の事ながら、相棒の物知りの良さに感心する。
「でもさぁ」
「?」
「“騎士道”…だとか、大層なモン掲げても、結局は殺戮を繰り返して戦歴上げて…って、そんな事だよな」
「……何が言いたい」
その時のケントの瞳が、冷たく光った様に見えたのは、気の所為か。
「そんな意味なんて、持たなくて良かったのに、って事」
「…………」
「……どうせなら、“継承”にも、“騎士道”にも関わらずに、“慈悲”だけを象徴してれば良かったのにねぇ?」
「………そうだな」
そう。 本当に、そうであれば。
冷たい、眼差しが向けられて。
未練がましく“タスケテ”なんて声を聞く事も無かったのに。
「……お前は、どの意味を示してる?」
剣に話し掛けたところで、答えなんて返ってくる筈がない。
そう分かっていても、口から零れた。
「…お前の内は、本当に弱く見える、セイン」
「……うん」
そうかもしれない。
ううん、きっとそうなんだ。
その時、再度理解した。
――――誰よりも慈悲を乞うていたのは、自分であった、と。
「――ねぇ、ケント。 この剣の意味が、そうであったら、この世界がそうなってくれるって、信じるよ」
「………お前は…本当に、馬鹿だ」
酷く、霞んだ視界を細く、細く見据えて。
いつか、その思いが現実になる事を信じて。
人を、殺す剣を、持たなくても良い様になるまで。
明日もまた、人を、殺す。
(夢じゃだめなんだ、現実で、見えないと)
End
戻る